新版 山を考える (朝日文庫)



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登山論の極致

著者は冒険ということを考え突きつめ、それが創造行為であり誰もしたことがないことを意味すると考えている。登山の時代は発生以来数十年がすぎ、いまや奇形の時代をむかえた。「創造的な登山」と著者が夢見たものは消え、著者が提起した議論に対する山岳会の反応は絶望的であった。「そこに処女峰エベレストがあるから」は「そこに山があるから」と今や歪曲され、「みんなが登るから」山に登る連中お気に入りの言葉になった。「山は死んだ」。完璧に保護された山ほど完全に征服され意味を失った山はない。登山者は「バリエーションルート」というコースの開発に血道をあげだす。「世界に類のない、下等な、非人間的な」シゴキという文化を有していた日本人は、山でもそれをやりだす。ひどいシロートが不十分な装備と知識で山に送りこまれ遭難させられる。遭難者が出ればリンチ同然の報道が飛び交う。登山の記録は案内書以外は生産できなくなった。なれのはてが『日本百名山』。深田氏をよく知る著者は、深田氏のこの本のとおり山をなぞる人間こそ実は深田氏の最も軽蔑する人間であると言う。さらに実は深田氏は山の紀行文が苦手であった。彼は山そのものをでなく、山をめぐる雰囲気と人を愛したにすぎない。これを卑近に敷衍するなら、現在登山の部活などでは、山そのものが好きなのでなく登山をめぐる人付き合いが好きなのであって山は大嫌いと言うものがいくらでもいるが、こういう者が「山」に入る時代が来たのであり、深田氏はその端緒であったのかもしれない。こういった考察すべてを、さらにヨーロッパの登山と著者は比較する。その筆も圧倒的。この書ほど鋭利で見抜かれた登山の議論(もはや結論)は考えられない。



朝日新聞
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